新国立劇場のオペラ公演「パルジファル」を観ました。(以下では「パルシファル」と書きます。)
床にLED光源の「光の道」を配置し、場面によって様々に照明の色を変えていました。
舞台は部分的に上昇下降し、聖槍をモチーフとした巨大な刃「メッサー」が回転して舞台上に現れ、その上に人が寝そべったりしていました。それらすべてが美しく、これまで見たこともないような新鮮なものとして受け止めることができました。
パルシファルの持つすべての生き物に対する共感を強調していました。白鳥を殺してしまったことに対する後悔の表情、花の乙女たちの場面で本当に野の花と戯れているように思わせる演出など。
パルシファルが床に倒れ、他人から水を飲ませてもらって立ち上がる姿(歌手が床に寝そべる場面は多かったです)を見ると、今回のパルシファルは表面的な強さとは無縁の存在だということが分かります。それでいて道すがら薄着の人に衣服を与える姿、アンフォルタスに代わって儀式をとりおこなう姿など、人間的な強さを感じる場面も多く、パルシファルが主人公だということを納得できました。
演出のクプファーさんのインタビューでは聖杯騎士を「形骸化したキリスト教の象徴」として断罪していましたが、実際の演出では、聖杯騎士たちもまたパルシファルの後を追って(あるいは別の道を歩んで)、人としてより良い道を求める可能性があることを示していました。キリスト教の信仰の世界を描きながら、なお異なる宗教の存在を許容するという調和に満ちた結末は、現代のオペラ演出でおよそ考えられないほどのハッピーエンドだったと思います。
視覚的に美しく、しかも内面的な深さを備えた演出を見せてくれたハリー・クプファーさんに、そして本公演の制作に携わったすべての方々に心からの感謝を捧げます。
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