2014年2月21日金曜日

MOTアニュアル2014

東京都現代美術館「MOTアニュアル2014フラグメント 未完のはじまり」に行きました。
福田尚代さんの展示がありました。以前は回文の展示をしていた彼女ですが、今回は文字の分解・解体を行っていました。
本の中のある一文だけが見えるような状態で展示されていました。その一文に含まれる「バートルビー芸術」という単語を際立たせるように。バートルビー。すなわち創造することに対する困難性の象徴。エンリーケ・ビラ=マタスの「バートルビーと仲間たち」の中の文です。
別の展示ではアルチュール・ランボーの手紙の翻訳本のページを並べていました。何枚かの紙では文字がぼやけ見えないのですが、よく見るとページに微小な穴が開いていて、そのせいで文字が読めなくなっていました。まるで病気の牛の脳細胞を電子顕微鏡で撮影したところ、微細な穴が開いていて組織がスポンジ状になっていた、とでもいうように。

ランボーは人生の途中で詩作をやめ、後は商人として、ただ文章といえば手紙を書くだけで後半生を過ごしたのでした。そしてビラ=マタスはランボーをバートルビーの一人に分類していましたが、バートルビーという単語を「書くことに困難を感じること」のような、一般的な広い概念として使っていました。
「バートルビーと仲間たち」という本を手にしたとき、私はランボーとバートルビーの関係について、もっと狭い意味で使われているのかと思っていました。
例えば作曲家のラヴェルが晩年に脳に異常をきたし、「日常生活は可能なのに音符を書くことができない」状態におちいったように。ランボーは手紙のような文章を書くことに何の障害もなかったのだが、詩を作ることはできなくなるような脳の異常を発症したのではないだろうか…
残念ながらそのような記載はありませんでした。そしてそのようなことを言っている研究者がはたしているのかどうか、私には分からないのでした。

展覧会では他に高田安規子さん政子さんの展示もありました。精巧なトランプの模様からペルシャじゅうたんへと想像が広がるような作品の展示が印象に残りました。

2014年2月13日木曜日

「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義」

三菱一号館美術館「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860-1900」に行きました。
ラファエル前派やアルバート・ムーア、フレデリック・レイトンなどの絵が展示してあります。
彼らは聖書や古典の一場面を描く絵画から抜け出して、特定の物語を題材としない絵を、「主題のない」ひたすら目を楽しませるような絵を描こうとしていました。それはまた、当時の財をなした富裕層が新しく社会の中心となろうとする動きとも重なるものでした。
ウィリアム・モリスたちが行った本の装飾や日用品の装飾も展示してありました。少数生産の高価なものであれ、大量生産の安価なものであれ、そこには同時代の人々に美を届けよう、大衆と関わろうとする意志を感じることができました。
「唯美主義」という言葉から想像されるような、現実世界を見ようとしない、時代に背を向けた人間の姿は(そのような美術収集家の姿を描いた風刺画は確かに展示されていましたが)、少なくとも芸術家の作品からは感じられませんでした。

個人的にはアルバート・ムーアの「真夏」という作品が印象に残りました。
古代ギリシャを舞台としていながら、近代的な空間と光の描写があり空気感が表現されていて、堂々たる美の世界がありました。また題材こそ直接古典から取っていなくても、伝統的絵画とのつながりは完全に途絶えてはいませんでした。

2014年2月1日土曜日

渡辺千尋展

不忍画廊と練馬区立美術館とで開催されている渡辺千尋展に行きました。
不忍画廊に展示されていた「アダムとイブ」は不思議な作品で、20世紀のシュールレアリストたち(かつて澁澤龍彦が好んで取り上げたエロティシズムの作家たち)を思わせるものでしたが、そのような作品はこれ一点でした。
練馬区立美術館に展示されていた油絵を観ると、物の表面の肌理に目が引き付けられ、平面芸術との親近性を感じました。また風景を描写した銅版画には、空間のすべてを線で埋め尽くそうとする作者の執念が感じられてくるのでした。
版画集「象の風景」も販売されていました。その中で渡辺さんはハンス・ベルメールについて言及していながら、不思議なことに「彼のビュランはデッサン画以上の何も進展していない」「ビュランに生命がない」と言うのです。(ベルメールの銅版画は彼の同時代の彫師が彫っている)
ベルメールの「道徳小論」などの作品は、銅版画であってしかも彼の最高の芸術が現れていると思うのですが…。銅板を彫る作業はデッサンをただ銅板に写すだけの作業ではない、それを越えるものでなければならない、というのが渡辺千尋さんの主張なのでしょう。
不忍画廊
2014年1月15日(水)~2月8日(土)
休廊日:日曜日・祝日
営業時間:11:00~18:30

練馬区立美術館
2013年11月30日(土)〜2014年2月9日(日)   
休館日:毎週月曜
開館時間:10:00~18:00
観覧料:無料