2017年12月9日土曜日

「アジェのインスピレーション」

東京都写真美術館の「アジェのインスピレーション ひきつがれる精神」に行きました。
パリ市内や郊外の様子を撮った写真は、弱めのコントラストの美しいプリントでした。販売されていた図録もよかったです。

アジェはパリの風景を記録にとどめましたが、それはル・セックやシャルル・マルヴィルといった写真家たちと変わるものではありません。またアメリカで写真を撮ったウォーカー・エバンスと変わるものではありません。
しかし、アジェの写真は何かが違っています。
その魅力を作り上げているのは、パリの街並みという被写体が持つ詩情、変化するパリを記録にとどめようとする社会の要請、そして写真家が被写体を見出し、写真に対して自己を投影するあり方が、アジェの場合は、まったく前例のないものであったということ、そしてマン・レイやベレニス・アボットやジュリアン・レヴィのような周囲にいた人たちのシュルレアリスムの考え方、それらが重なったものだという気がします。
本来はアジェの写真は非常に静的なのですが、ベレニス・アボットの目を通したアジェはもっと動的になっています。印象に残る写真たち、日蝕を見る人々、大道芸人、娼家などの写真は彼女のプリントによるものです。
彼の写真には彼を取り上げた人間たちの思想が渦巻き、彼の写真を受け取る側の人間の心情がからみあい、アジェその人の姿は謎に包まれ、真の姿を見出すのは難しいことを感じました。