2015年1月27日火曜日

菅木志雄展

東京都現代美術館「菅木志雄 置かれた潜在性」に行きました。
1960年代から70年代にかけて制作された作品を展示していました。
「依存差(1973)」では自然のままの形状の石と直方体に面取りされた石とが金属面の上に置かれていました。素材感の違いから金属と石とは明らかに違う物として存在していました。
「並列層(1969)」ではロウの薄い平板が積み重ねられているのですが、わざわざ薄い面の側を使って積層した部分は明らかに不安定であり、広い面を積み重ねた場合(すなわち同じ性質を示す部分がより大きい形での接触)はより安定していました。
「多分率(1975)」では平面状に張られた半透明ビニールシートの上側に自然形状の石を置き、下側に四角柱を置いていました。下に四角柱があると知っていれば上の石を見て下の石の形状を想像することは不可能ではありません。けれども下の四角柱を見て上の石の(自然のままの)形状を推理することはどう考えても不可能なのでした。
「捨置状況(1972)」では壁から張り巡らされた何本もの金属線の交点に木片が乗せられていました。(いくつかの木片は交点でなくただ金属線上にありました)。木片の形状はさまざまですが、それらは交点の位置を占めているという共通性を持っていました。そして仮に金属線がなかったと仮定するならば、交点の存在を想像する必要がありました。
「界入差(1979)」では金属面の上に自然形状の石と直方体の石とが置かれていました。ただし直方体の石の表面は金属で覆われており、それが部分的であるために(同じ性質を示す部分がより大きいために)石に近い物として知覚可能となっていました。おそらく金属部分が大きくなればなるほど金属として知覚する可能性が高まるのでしょう。

ミュージアムショップに菅さんの本(推理小説)がありました。菅さんの作品は知的作業によって作られたものであり、解答がある芸術なのではないかという考えを抱かせる出来事でした。

会期:2015年1月24日(土)- 3月22日(日)
休館日:月曜日
会場:東京都現代美術館(企画展示室地下2F)
開館時間:10:00 - 18:00 ※入場は閉館の30分前まで

2015年1月12日月曜日

奈良原一高「人間の土地」「王国」

東京国立近代美術館に行きました。
3階では奈良原一高「人間の土地」の小特集が組まれていました。
長崎の端島(軍艦島)を撮影した写真と、桜島の噴火に見舞われた黒神村を撮影した写真。
見る者を引き込む鋭い描写に圧倒されました。発表してすぐ反響を呼び、大学院生だった奈良原を一躍有名にしたとの解説も納得できました。
とくに軍艦島については、当時は炭鉱の町で何千人もの人間が住んでおり、レンズはアパートや地下道を行き交う人たちや浴場での炭坑夫の姿など、生活の様子を克明にとらえていました。端島神社も写っています。
人間と社会機構との対立をあぶり出すという撮影者のコンセプトは成功を収めていました。写真の裏側には撮影当時の過酷な労働状況が隠れているのだと思います。けれども私は周囲から隔絶し孤立した世界の描写に、未知の世界への憧れ(少年が夢見る冒険の世界)が含まれているように感じられてなりませんでした。
例えば漫画の鶴田謙二「冒険エレキテ島」を思い出す瞬間もありました。軍艦島のような外観をした未知の島が海上に浮かび、太平洋を巡回している。小さ過ぎるゆえに誰もその存在に気付かない。いつ何時遭遇できるかも分からない…
若者らしい感性がこの写真を支えているのだと思います。

2階では奈良原一高「王国」の特集が組まれていました。
北海道の修道院を撮影した写真と、和歌山の女性刑務所を撮影した写真。「人間の土地」のように孤立した世界を撮影したものですが、より世界の広がりを感じ、普遍性を感じる写真が並んでいました。
作者自身が単行本にカミュ「ノア」からの引用を載せているのですが、それが相応しいのは修道院の方でしょう。祈りの生活の静謐さや、人間だけでなく自然や動物たち(羊など)との交流が描かれています。