東京国立近代美術館に行きました。
3階では奈良原一高「人間の土地」の小特集が組まれていました。
長崎の端島(軍艦島)を撮影した写真と、桜島の噴火に見舞われた黒神村を撮影した写真。
見る者を引き込む鋭い描写に圧倒されました。発表してすぐ反響を呼び、大学院生だった奈良原を一躍有名にしたとの解説も納得できました。
とくに軍艦島については、当時は炭鉱の町で何千人もの人間が住んでおり、レンズはアパートや地下道を行き交う人たちや浴場での炭坑夫の姿など、生活の様子を克明にとらえていました。端島神社も写っています。
人間と社会機構との対立をあぶり出すという撮影者のコンセプトは成功を収めていました。写真の裏側には撮影当時の過酷な労働状況が隠れているのだと思います。けれども私は周囲から隔絶し孤立した世界の描写に、未知の世界への憧れ(少年が夢見る冒険の世界)が含まれているように感じられてなりませんでした。
例えば漫画の鶴田謙二「冒険エレキテ島」を思い出す瞬間もありました。軍艦島のような外観をした未知の島が海上に浮かび、太平洋を巡回している。小さ過ぎるゆえに誰もその存在に気付かない。いつ何時遭遇できるかも分からない…
若者らしい感性がこの写真を支えているのだと思います。
2階では奈良原一高「王国」の特集が組まれていました。
北海道の修道院を撮影した写真と、和歌山の女性刑務所を撮影した写真。「人間の土地」のように孤立した世界を撮影したものですが、より世界の広がりを感じ、普遍性を感じる写真が並んでいました。
作者自身が単行本にカミュ「ノア」からの引用を載せているのですが、それが相応しいのは修道院の方でしょう。祈りの生活の静謐さや、人間だけでなく自然や動物たち(羊など)との交流が描かれています。
0 件のコメント:
コメントを投稿