東京ステーションギャラリーの展示で藤田龍児の絵を観ました。
藤田は48歳にして病に倒れ、いったんは絵を諦めかけるのですが、やがて筆を別の手に持ち替えて再び絵を描き始めます。画風は抽象画から具象画へと変わりましたが、対象の質感の表現や画面の裏側にあるものを伝えようとする意志は変わっていませんでした。
病から復帰してからの絵を観ると、利き手でない手を使っているにもかかわらず、筆使いは少しも稚拙になっていませんでした。構図はリアルでないため素朴な絵とみなされることもあるでしょう。けれども近くに寄ってみると、木の葉の表現や家の壁の質感は紛れもなく専門家のものでした。
キャンバスに塗った下地の色が表面を削ることで少し透けて見えるように、素朴な絵には世界を作り出そうとする画家の意志があり、裏側には隠された祈りのようなものが感じられました。
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